遥かなる隣国の風
                〜 砂漠の王と氷の后より
      *砂幻シュウ様 “
蜻蛉”さんでご披露なさっておいでの、
       勘7・アラビアン妄想設定をお借りしました。
 


この大陸のほぼを占める砂の大地の、
これまたほとんどという勢いにて、
その権勢を広げての、しかも安泰に収めている、
伝説の覇王様、これありて。

  ………以下、略。(おい)

その権勢の拡大は、正確には彼の父王の代から始まり、
略奪や征服に自国が凌駕されるのを嫌って立ったのが切っ掛けだったものが、
気がつけば群雄割拠の筆頭をゆくほどの勢力と化していたとか。
後継者である現王もまた、
名声欲や権力に餓えていたわけでなし。
ただ、戦略の妙に長けていたその才を、惜しみ無く発揮していたところ、
気がつけば“制覇”という高みに到達していたという順番だったようで。

  ―― これこそ、無欲の勝利というところかと。(…ちょっと違うぞ)

武力にての真っ向勝負とばかり、
そちらの支配層が率いていた軍とぶつかった末、
見事もぎ取った地もあれば、
根気よく地道に交渉した末に“同盟国”という形にて親交を通じさせ、
気がつけば…様々な利権がこちら側へと擦り寄っておりましたという、
意外な結果を導いている地域もあり。
指揮官時代に協力を仰いだ縁あってのこと、
今でも信頼し合う異民族の一党と、
こそり結んだ連携により巧妙な包囲網を敷き、
あっけないほどあっさり陥落させた領もあれば、
しまいには、
勇壮な軍勢にての進軍を構えただけで恐れ慄いて、
命ばかりはお助けと、国民をおいて逃げ出した首長もいたほどに。
覇王の勇名は もはや誰にも止められぬまま大陸全土へ響き渡り、
その支配下にいることこそ揺るがぬ幸せと、
下々の国民たちからこぞって謳われるほどという。




     ◇◇



 結局のところ、くどくどとご紹介してしまいました
(苦笑)、我らが沙漠の覇王、武勇の誉れも高き賢王カンベエ様には。人望も厚く、ご本人の人柄もそれはそれは頼もしき惣領閣下に相応しく、今現在、3人のお后様が添うておいで。どちらの夫人もそれは名のある王宮から嫁がれた、身分も高く、人品も尊き美姫ばかりで。時代が時代でご身分もご身分であったため、政略的な婚儀ばかりであるとはいえ。東宮時代にご婚約された、第一夫人のシチロージ様とは、時に政権の行く末を左右するよな鋭き見解見い出しつつも、直截には口にせずの、あくまでも仄めかす聡明さをば、カンベエ様もまた 苦笑交じりに愛でての受け止めなさるほど、それは堅実な信頼をしっかと築かれておいでだし。はたまた、近年 嫁がれたばかりの第三夫人キュウゾウ様はといえば、まだまだ世間知らずな“箱入り”の気概も濃い姫なのを、時に強引に、時に歯痒いほど焦らしもっての、少ぉしずつ懐柔しておいでで……いやあの、げふんごほん。/////// 第二夫人に至っては、至っては…、至っては…? ………申し訳ありません、勉強不足にて資料がございませんが、それは淑やかにして教養深い、たいそう慎みのある美姫だとのお噂が。(…う〜ん)

 「………。」

 いづれが春蘭秋菊かという美姫ばかりである上に、それぞれの生国の命運をも背負っておいでの、正にお宝的存在でもあることから。王宮内のさらに奥深く、王宮自体と緑滴る庭園を模した城塞とに囲まれた“後宮”に、それぞれの宮を設け、世話役や話相手の侍女を従え、それは優雅に住まわっておいで。それぞれがそれぞれの事情あっての、個々に当地へ嫁いでいらした夫人たちではあれ、ここの主
(あるじ)とも言えよう、第一夫人のシチロージ様が、緩急自在な手綱とりをなさっておいでの そのおかげ様。派閥争いだの、権勢争いだの、誰が覇王様からのご寵愛を独占してもぎ取るか…だのとかいった、どれもさして差は無かろう、血で血を洗うような女たちのどろどろした戦いとは無縁なまんま。それはそれは平和に、安寧のどかな日々を送っておいで。ワケありもワケあり、城が焼け落ちたほどの戦火の中にて講和を結ばれ、花嫁なんて名ばかりの“人身御供でございます”というお立場で、南方の炯国からキュウゾウ様がやって来られた折だけは、そんな長閑さもさすがに一変し。烈火の姫との異名持つ妃の、紅色の双眸がそれは鋭くも挑発的であったがために。そんな視線が巡るその先々にて、王妃様以外、侍女らも女官もびくびくと震え上がっての、後宮が初めて張り詰めた空気に満ちたものの。

 『これをわたしが告げてもいいものか。
  その青年が寝返ろうとしていたことは御存知ではないのでしょう?』

 それもまた、第一夫人の慈愛に満ちたお言葉掛け。実は実は、カンベエが軍を率いて押し寄せたは、炯の国を救うためだとの、真実本当を告げたことにより。彼女の胸中にあった疑念や妄執は あっと言う間に氷解してしまい。そうともなれば、根は素直で無垢な娘だった烈火の姫、頼もしい正妃様へ妹のように懐いてしまうのに、さほどの刻は かからなんだほど。時折 妃らを困らせるよな我儘を並べる王なのを、畏れ多くもとっちめてやろうと、他愛ない悪戯に意を合わせたり。街で流行の飾り鎖や宝珠のチャーム、さっそく取り入れての、互いを飾って誉めそやしたり、と。屈託のない過ごしようを堪能し合うのが常の、やさしい刻を紡いでおいでな彼女らだったが、

 「…? 如何しましたか? キュウゾウ。」

 王宮のある、この首都に限っては、1年を通じて、目に見えての寒暖の差はさほどにない土地ではあるが。北はシチロージの生国、雪と氷の彩る知慧の国・北領から、南はキュウゾウの生国、灼熱と貴鉱石の産地・炯国までと。それはそれは広大な地域を、その自領や属領としている王国ゆえに。この世のたいがい、どんな希少なものであれ、手に入れることが叶わぬものは無いとも言えて。それこそ、宗教も風俗も異なる土地のものであれ、欧州の産物にも、東洋の器物にも、あっさり手の届く、知る人ぞ知る、地上最強の覇国とも言えて。そんな王国の心臓部、カンベエが政務を執りし、王宮の奥向きには。至上の麗華、瑞々しいまでの美姫らを守る役割も大きく、灼熱砂漠のただ中には奇跡のような、水と緑の苑があり。水が豊富で穏やかな環境なせいだろう、そこには、支配の及ぶ土地土地や、友好関係にある属領から贈られた、珍しい木々も育っておいで。南方の、しかも此処より乾いた土地に育ったキュウゾウにとっては、見たこともない花ばかりが可憐にも咲いているのが珍しく。時間さえ許せば、この花園へと運ぶことが多いのだけれど。

 「………?」
 「ああ、その花ですか?」

 裸子植物が多い、砂漠や亜熱帯には珍しく、堅い幹に、枝分かれした梢を持つ樹花であり。それは見事な花が咲きそろっていて、決して枯れてなぞいない。だというのに、何故だか違和感があるものだから、花の可憐さへ集中出来ないキュウゾウらしく。金の綿毛を乗っけた頭、かっくりこと傾けておいでの様子が、いかにも幼く、愛くるしくて。あらあらどうされたことかしらと、くすすと微笑うの浮き上がらぬよに、ベールに覆われたお顔の口許だのに、なおも白い御手で押さえつつ、

 「見たことが無いのも無理はありませんね。」

 この砂漠の地には、本来 育たぬ植物ですからと、物知りの宮様、目許をたわめて仰せになり。

 「それは、さくらという東洋の樹ですよ。」
 「東洋の?」

 ええと鷹揚に頷いた紫の宮様の口にした、そのフレーズならば、ほんの先程聞いたばかり。今、シチロージがお顔にまとった“ヒジャブ”というかづきとお揃いのそれ、烈火の姫にもと、こちらは深みのある紅蓮の絹を頂いたのだが、

 『??? 厚いのに軽い?』
 『でしょう? 唐渡りの絹だからですよ。』

 手触りもつややかで、すべすべとした光沢も美しく、ご当地の更紗のように向こうが透けぬ、それは目の詰んだ、上等の絹のヴェール。カラワタリ?と、聞き馴れないフレーズをキュウゾウが繰り返せば。お座処
(おまし)では互いにお顔を晒していたそのまま、玲瓏端正な面差しを、はんなりとほころばせたシチロージが言葉を継いで、

 『この地よりずっとずっと東の、
  インダスやカシュミルよりもっと向こう、
  吐蕃の果てにある国ですよ。』

 穏やかな春と灼熱の夏と、寂寥の秋と極寒の冬が1年掛けて巡るという、何とも不思議な気候の国で。長い長い旅路の向こうにあるとかいう話。

 『そこには沢山の不思議な器物があふれていて。
  土を練って焼いた、白玉のような肌合いの陶器というものや、
  同じ絹でもこのように、
  それは重厚でなのに軽やかな、質の優れたものが、
  ごくごく普通にあるのだとか。』

 パピルスよりも軽く薄く、でもでも丈夫な質の“紙”というものへ文字を記して、学問や情報をつまびらかに広めてもいるとかで。そんな先進の土地が産出したという、夢の中にしかないような肌触りのする、絹のやわらかさを頬に感じつつ。優しい淡い色した花を、正青の空の下にうっとりと見上げるキュウゾウ、

 “…………あ。”

 そうかとやっと気がついたのが、葉が一枚も見当たらないのが違和感の正体だということ。目の詰んだ練絹のように、深みのある緋白の小花が幾重にも重なっていて、だが、そのどこにも緑の葉が見当たらぬ。

 「確か……。」

 欧州の花なぞは、冬の間は裸でも、春になれば枝に葉が芽吹く。そんな緑の葉が体裁整えてから花が咲いたように教わったのだけれども。東洋ではそういうところも違うのだろかと、不思議を目の当たりにし、ただただ小首を傾げておったれば、

 「おや、キュウゾウ殿はそのような学もおありか。」

 シチロージが楽しそうに笑顔を見せる。淡い色彩の花がそれはよく映える、繊細にして嫋やかな風貌の肢体をサクラへと寄り添わせ、

 「東洋の唐や後漢は、いろいろと不思議の国ですが。
  それを言ったら炯のお国も、
  此処と同じく灼熱の地ではあれ、
  氷室のような洞窟や鉱石の地脈に恵まれておいでだとか。」

 この王宮へとキュウゾウ殿が嫁いで来られての、今のような縁が出来なんだなら、炯国こそが、私には“おとぎの国”であったはずと続けられ、

 「人と人との縁とは、ほんに不思議で珍妙なものですよね。」

 ほほと微笑ったシチロージへ、釣られるようにやはり微笑ったキュウゾウだったが、

 “人の縁、か。”

 ああ、そういえば。欧州の花の話をしてくれた人も、奇妙な縁があっての、傍づきになってくれた人だったなと思い出す。本国から少し離れた海岸寄りの飛び地の領に、時折打ち上げられることがある、座礁船からの遭難者の中には。航海なんていう途轍もない冒険に挑むだけあって、様々な知識を持つ、才豊かなお人も多いので。本国へ戻るのが難しいというのなら、その才を生かして炯の国で暮らすことにしてはいかがかと。内務官が帰化を勧める人材もたまにいる。もしやして、どこぞかの国が送り込んだ間諜かも知れぬ…との恐れもあるだろにと、近年は滅多なことではこちらから勧めることもなくなっていたそうだが。だったら例外中の大例外、しかも、当代の国王の一人娘キュウゾウの傍仕えにとの推挙をされたほど、山ほどの知識を持ち、武術を教える手際にも優れ、その上、誰もが認める 子供好き…な人物であったがゆえ。まだまだ幼く、しかも人見知りの強かった姫が、あっと言う間に懐いたことを買われ、遭難者だというに、護衛 兼 教育係にと推挙された変わり種。寡黙だが、実は知識欲が旺盛で、無言のまま、だがだが こちらの手を引いては紅色の眼差しで見上げて来、

  ―― あれは何? それってどうして?、と

 様々なことを訊く彼女へと、ほぼ遺漏なく応じてしまえた練達だったところを買われ、10年近くを共に過ごした、それは頼もしい側近だった人。

 “……彼は桜を知っていたのだろか。”

 カンベエが軍を率いて押し寄せた折、他国者の身で内宮にいては怪しまれかねぬからと、隠し通路から書庫へと隠れているよう命じられ。キュウゾウも共に逃げるよう言われたものを、いいやと強情張って、両親と共に王の間へ居残って以降、そういや彼とは逢ってはなくて。

 “ヒョーゴも 何も言うては来ぬが。”

 取り交わす文には いまだに検閲が入るので、それで、そのようなややこしいことは書けぬのか。豪放そうな柄に似合わず、お顔に負った深い傷を気にしておいでで。野獣と戦って受けた男の勲章、恥とは思ってないけれど、

 『実は、生国にそれは愛らしい姫が待っておるのだが。』

 キュウゾウより少しほど年上か、その姫が怖がるのではないかと思うと、逢いにと戻るのは諦めたがいいのかも…なんてなお話を。どこか照れ臭そうに、キュウゾウの父王や母妃と交わしていたお人。

 “如何しておいでかの……。”

 今の今まで思い出さなんだのは、いつでも戻る気満々でいたからか。唐渡りの絹も、唐からやって来たという桜の花も、もしもその彼が知らなんだなら、鼻高々に語ってやれるのになと。微妙な里心が生まれてしまったらしき、紅蓮の妃様。小さな肩を落とされたご様子へ、

 “あらまあ…。”

 何を思い出したかは知らないが、これは励まして差し上げなくちゃと。こちらはこちらで、きれいな両手を胸元へ伏せ、うんうんと頷いて見せるシチ妃様であり。春の訪のいは、この地でも人々の心をくすぐるそれなようで。羽ばたき招くか、嵐を呼ぶか。ヒジャブごと金の綿毛を掻き乱して吹きすぎる、風に訊いても答えはないまま。緋白の木花も揺れるばかり……。




  〜Fine〜  11.04.07.


  *第二妃のお話があんな終わり方だったのに、
   こんなに間を取って、
   しかも何事も無かったかのよな
   呑気なお話になっちゃっててすいません。
(うう〜ん)
   キュウゾウ殿、まだヘイさんとはご対面してないらしく、
   それでも、ヒジャブのお仲間に入れてもらえたらしいです。
   カンベエ様を直接出せなんだのが ちょこっと寂しいですが、
   ここはワンクッション置きたかったので悪しからず。

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